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SCENE002 ■一週間前 「フンっ、お前等が噂のモグリのハンターか。噂どおりガキばっかりだな」 ヨシヤが扉を開けると出迎えたのは、とてもシロウトには見えないオッサンだった。目つきの悪い髭面で、筋肉の塊のような身体をしている。 此処は蹄国の辺境、未子矢村の村長のお屋敷の玄関を入ってすぐのホール。そこにこのオッサンが仁王立ちしていた訳だ。 「誰?このオッサン」 身体の大きさでは、ヒケを取らないヨシアが指を差して振り返る。 「あたしが知る訳ないじゃない」 後ろに居たミナミが答える。 「俺はハンターだ。お前等とは違って地のユニオン公認のな」 天井近くの2つの眼が、ヨシア以下四人と妖精一人を見下ろした。 「だとさ」 ヨシアはミナミに肩をすくめて見せる。 「ユニオンのハンターだってさ」 ミナミは更に後ろのモナモナを見る。 「ふーん、でも、どちらかといえば、ハンターっていうより山賊って感じだよね」 モナモナは、その後ろのカレンを見る。 「あたしに同意を求めないでよ」 「にゃあ」 トキヤは、少し離れた場所で子猫をいじっている。 「つまり、依頼がカチ合ったってこと?」 「でしょう」 ミナミとカレンは顔を見合わせた。 「最近、多いなそーいうの。自分で獲物の一つも探せんのかユニオンのハンターは」 ニヤリと笑ってハンターを睨むヨシア。 「何だとガキ」 「にゃあにゃあ、こっちにおいで」 「ニィー」 「うわー、かわいい」 「ちょっとトキヤ、あたしにネコを近づけないでよ」 「フン、まあいい、分かってるだろうが優先権は俺にある。ガキどもは、とっとと帰ってオママゴトでもやってな」 「優先権?寝ぼけてもらっちゃ困るなオッサン、そいつはユニオンのハンター同士の話だろ。悪いが俺達には関係ないぜ、なんたってこっちは未公認だからな」 「そーいうこと、それにどーせ、あたしたちの受けた依頼を何処かで盗み聞きしたんでしょう?優先権が聞いて呆れるわ」 「落ち目のハンターが良く使う手ね」 ミナミとカレンも負けずに前に出る。 「なんだと」 「否定しないところをみると図星だったみたいね」 「セコイの」 「おい、女子供でも容赦しねえぞ」 「こわーい、女の子相手に暴力?」 「でも、痛い目を見るのは、どっちかな」 ミナミがおどけて、カレンはウインク。 「ほう、試してもいいぜ、お嬢ちゃん?聞き分けのない子はブチノメしてから、ゆっくりと教育してやるぜ」 ユニオンのハンターがサディスティクな笑みを浮かべて指をポキポキ鳴らす。 ミナミとカレンが後ろ手に印を造り、ヨシアが拳を固めた。 その場の空気が張り詰める。 「ほら、モナモナと同じ大きさ」 トキヤは子猫を抱き上げてブランとさせる。子猫は、モナモナを捕まえようと手を伸ばしてバタバタさせた。 「やめてよ!ネコは妖精の天敵なのよ!」 「そーなの?こんなにかわいいのに。喉をゴロゴロさせてるよ」 喉の下を撫でてあげると気持ち良さそうに目を閉じて首を伸ばす。 「……トキヤ」 ヨシアは、振り返ることなくハンターの顔を睨んだまま声をかける。 「んっ?」 「お前は向うに行ってろ」 「どして?」 「緊張がゆるむんだよ」 「ふーん」 トキヤは子猫を抱えたまま、ユニオンのハンターとヨシアの間にチョコチョコと入り込んでそれぞれを交互に見る。 「喧嘩しちゃ駄目ね」 そしてヨシアの顔をじーっと覗き込む。 「そいつは、オッサンに聞いてくれ」 「駄目だよ駄目」 「あのな」 「駄目」 「……あ……もう、分かった」 トキヤの藍色の瞳に見つめられると、全く反抗出来ないヨシアである。 「うん、それならいいよ」 トキヤは、子猫を抱えモナモナを頭に乗せてトコトコと中庭の方へと歩いて行く。一同はユニオンのハンターも含めて、その後ろ姿を黙って見送った。 「田舎の寒村の村長宅にしては、凄く立派だね」 「古いけどね」 モナモナとトキヤは、いまモメ事をやらかしていた建物を見る。 石作り重厚さと繊細な意匠を凝らしたデザインは、大国の貴族の邸宅を連想させる。 「あっちの七神教会の聖堂も凄いよね。ちょっとした寺院て感じだね」 「うん、大きいよね」 村の中心にそびえる大聖堂は、それこそ田舎の寒村には不似合いな景観だった。 砦のような壁は、巨大にして重圧。七神教会聖堂特有の数の多い尖塔は、天を目指して突き出す。それらは寺院建築の様式を教科書どおりに体現していた。 「惜しむらくは、もう朽ちかけて、まるで廃墟みたいってところかな」 塔の幾つは欠落しているし、壁も崩れているのか斑な陰影が着いていた。人がいなければ、立派に遺跡として通用しそうな感じだ。 「でもさ、村の中の聖堂っていうより、聖堂の敷地内に村があるみたいだよね」 「そいう感じはするわね」 「昔はこの辺りが蹄国の中心だったのかもしれないね。きっと聖堂だけが残ったんだ」 「そりゃ地の大陸なら、どこだって今よりはずーっとマシよ」 「流石、生き証人の言葉、重い」 「聞いた話」 「じゃあ、すーっと昔のことだ」 「……あのね」 トキヤは、広い庭を横断して、手頃な高さの朽ちかけた石柱にヒョイと飛び乗る。手頃とはいっても、彼の背よりずっと高い。 石柱は、ストーン・ヘンジ(環状列石)のように大きく円を描いて並んでいた。順に高くなるそれ次々と飛び移り、半周するころには結構な高さに達していた。 子猫は、トキヤの手の中で、びっくりして眼を丸くしてる。それでも広がる風景に見入っているふうだった。 「ホント、昔は大きな街だったんだね」 聖堂や村長の屋敷を始めとして、ちゃんと残っている建物は、ほんの少しだけど、いずれも永年の風雪に耐えた立派なものだし、広い道路の名残や、朽ち果てた建築物の跡が、今の村を守る城壁の向こうにずっと続いていた。かつての街の中心部だけが、村として残ったのだろか。 「それだけ、殺伐とした風景だけどね」 「うん」 村の北側に大きく広がる樹海以外は、見渡す限りの赤茶けた荒れ地。それは都市の死骸だった。それが土に還ろうとしている場所。肌寒い風が砂の音を運んでくる。 城壁の中も外とあまり変わらない。僅かな人々の営みがあっても、ほとんどは赤茶けた大地のまま、少しの緑でさえ怖れているかのように草一つ生えていない。 「しかし、見飽きん風景だよ」 黒衣の老人が、トキヤよりもう一段高い石柱の上に立っていた。 「教会のお坊さん?」 「あんた方を招待した村長でもあるがね」 白髪の老人はシワだらけの笑みを見せる。かなりの長身で、若い頃は、さっきのハンターぐらいがっしりとした身体付きだったのだろう。 「村長さんも、じゃあ聖堂の司祭様」 「いや、ワシはそんなに偉くはないさ、ただ爺なだけよ」 「あたしは、爺じゃないけど偉いわよ」 トキヤの頭の上でモナモナが威張る。 「ほう、光羽根の妖精さんとは珍しい。幸運を分けてくれるのかな」 「信じればね」 モナモナは、光羽根をパタパタさせる。 「ほっほっほっ、こりゃいい」 「ところで村長さんが呼んだの、あのユニオンのハンター?」 「いや、ワシでは無いんだが、お前さん達に迷惑を掛けたことに変わりは無いな。いや、済まんな」 「別に謝って貰うことじゃないけど」 「お詫びに美味しいものを食べさせて」 モナモナは注文を付ける。 「はっはっはっ、ご覧の通りの村で、たいした物は何も有りはせんが、まっ、出来うる限りのことはしよう」 「頼んだわよ」 「ユニオンのことは、ちょっとした行き違いでな。いざとなったら、ワシが話を付けるから勘弁してくれ」 「勘弁してやったら」 「だからボクは、最初から謝ってもらう必要は無いって言ってるよ」 「それも、そうだったわね」 「ニャア、ニャア、ニャア」 子猫が腕の中でモジモジする。どうやら飽きてしまったらしい。 「分かった降りるよ。じゃあ村長さんまた後で……あれ」 子猫にちょと視線を移しただけで、黒衣の村長の姿が石柱から消えていた。 「流石に七神教会のお坊さんだ」 「ふーん、転送の法術か。人間にしては、やるわね」 「へえ、法術なの、便利そうだね」 「歩いた方が楽よ」 「それもそうかな」 トキヤは、来た道を引き返す。でも途中で面倒になったのか2階の屋根ぐらいの高さからストンと飛び降りてしまった。 「あの……」 屋敷に引き返そうとしたトキヤは、若い女性に呼び止められた。けっこう美人のお姉さんだが、彼にはそんなことはまったく意識していない。 「ニィー」 抱えていた子猫が、トキヤの腕から飛び出して彼女の足元に走った。 「お姉さんのネコなんだ」 「ええ。ミルクって名前なの」 彼女は、そっと子猫を抱き上げる。ゴロゴロがトキヤにまで聞こえてきた。 「ほんと真っ白だもんね」 モナモナは、トキヤの頭から離陸する。 「ごめんなさい」 いきなり頭を下げる彼女。 「えーと、村長さん家のネコの飼い主だから、村長の娘さんだね」 モナモナが推理する。 「……」 「違うの?」 「近いけど、孫なの」 「そーよね、奥さんにしては、犯罪的に若すぎるもんね」 「ボクはトキヤ。こっちはモナモナ」 「よろしくね。あっ、ネコはしっかり抱いててよ」 「マナミです」 「で、どーして『ごめんなさい』なの?」 「あたしが祖父に無断でユニオンに連絡したから……こんなことになって……あなたたちに迷惑を……」 マナミは、口ごもりながら話す。 「つまり、マナミがユニオンのハンターを呼んだのね」 手っ取り早くモナモナが結論づけた。 「違うの、呼ぶつもりなんて無かったの、でも、ユニオンの蹄支部にあなた達のことを問い合わせたら……」 「正規のハンターを送り込んで来た?」 「そうなの」 「ユニオンの連中のよく使う手ね」 「だね」 「ほーんとにユニオンの奴等って、どーして、トキヤ達に異常なほど対抗心を燃やしているのかしら」 「うん、どーしてかな」 地の大陸33ヵ国においてビィを狩る者、ビィハンターのほぼ全てを統括する組織、地のユニオン。 かつて、ビィによって滅びの道をたどりつつあった地の大陸の人々を救う為に七神教会によって作られた組織。 いずれの国にも属さない治外法権の特権を持ち、ビィを狩るという仕事とその副産物の独占によって、いまは七神教会をもしのぐ富みと力を手中にしていた。 勿論、誰でもビィを狩ることは自由だが、ユニオンによって育成されたビィハンター以外には事実上、不可能な行為であった。 「ユニオンも意地を張ってないで、いいかげんにトキヤ達を公認すればいいのに」 「ねえ」 2人でうなずきあうモナモナとトキヤ。 「でも、どうしてあなた達は、ユニオンのハンターじゃないのにビィと戦えるの?」 「マナミが不思議に思って、ユニオンに問い合わせるのも無理は無いわね」 「実際、ハンターを名乗る偽者も多いからね」 「それだったら、例外なくユニオンのハンターってことを強調するんじゃない」 「まあね、未公認だなんて、わざわざ疑ってくれって言ってるようなものだもんね」 「でも、ビィってユニオンのハンター以外は、一国の軍隊でさえ倒せない化け物なんでしょう?」 「それは、大袈裟過ぎるよ」 「だけど、あなた達にはビィが狩れるんでしょう?ビィハンターじゃないのに」 「ビィハンターだよ。ただユニオンが公認してくれないだけの話」 「えっ、ビィハンターなんだ」 「ビィハンター以外、ビィは狩れないってのは、ほぼ正解だよ」 「ユニオンのハンターじゃないけど、ビィハンターなの?」 マナミは混乱した様子。 「トキヤ達はユニオンの教育キャンプ出身なの。だから中身は、正規のビィハンターと変わらないのよ」 「でも、未公認なんだ」 「いろいろ事情がありまして」 トキヤはニコっと笑みを浮かべる。単にややこしい説明をするのが面倒だから笑ってごまかした。 「……」 地の大陸ではまれな存在である海の族の少年を見慣れないマナミには、効果てきめんであった。 トキヤの海の族特有の青い髪と藍の瞳。 そして美しい少女のような顔立ちと、ユニオンのハンターを見てからは到底、同じビィハンターとは思えない。彼女は思わず見入ってしまう。 「あっっ!」 「もうっ!」 突然、後ろからミナミとカレンが法術師のマントをひるがえして大股な足取りで近づく。 「その人、誰なのトキヤ!」 「もー、油断も隙もないんだから!」 トキヤとマナミの間に割って入るミナミとカレン。彼を守るように立ちはだかる。 「村長さんの孫のマナミさん」 「ふーん、それで何してたの?」 ミナミが、キッとマナミを睨む。 「お話し」 「どんな?」 カレンもマナミを睨む。 「ユニオンのハンターのコトだよ。それにしてもいきなり、どーしたの?」 目をパチクリさせているトキヤを見てモナモナは、上空に昇ってクスクス笑う。 「トキヤの仲間?」 マナミは二人の女の子を迂回してトキヤに駆け寄って囁く。 「うん、こっちがね……」 「ちょっと待って!自分で名乗るわ!」 ミナミが一歩前に出る。 「あたしだって」 カレンも前に出るから、手を伸ばせば触れる距離に四人が集まったことになる。 「あたしは魔法術師のミナミよ」 漆黒の長い髪を後ろに束ね、同じ色の瞳を持つ地の族の少女。きりりとした眉は、気の強さを現しているかのよう。 ペンダントの金細工とマントには、ミナミが言霊系の魔法術師であることを示す紋章が描かれている。言霊系の魔法術は、地の大陸においては、最もポピュラーな法術である。 「精霊法術師カレン」 セピア色の髪を肩まで垂らし、緑の瞳を持つ砂の民の少女が続く。ミナミよりは背が少し高いけど、線の細い感じがする。 砂の民は地と海の族の混血が祖と言われ、砂海の小国や、砂漠の大陸に多く住んでいる。 カレンも紋章を描いた金のペンダントと同じ文様の刺繍されたマント。それは精霊法術であることを示す。精霊法術を操る精霊法術師は、絶対的な条件として天賦の才、妖精の祝福を必要とするため、その数は非常に少ない。 「マナミさんだったわね、トキヤにチョッカイ出さないでくれない」 ミナミが、前髪をかき上げながら。 「えっ、チョッカイ?」 キョトンとした顔でミナミを見るマナミ。 「つまり、トキヤを口説いては駄目ってこと」 カレンが解説する。 「口説く?」 今度は、カレンの顔を見る。 「2人とも、何を言ってるんだよ、失礼なこと言わないでよ」 ミナミとカレンの連合軍とマナミの間に割ってはいるトキヤ。 「なるほどね」 マナミは、トキヤの肩越しにミナミとカレンの顔を見てニンマリする。 「それで、2人のどちらがトキヤの彼女なの?」 マナミはトキヤの両肩に手を置く。 「それは微妙かつ複雑な問題で……」 カレンが口ごもると、ミナミはその隙を見逃さなかった。 「あたしが彼女よ」 「ああっ!ずるーいミナミ!勝手に決めないでよ!」 「先に言っモノ勝ち」 フフンといった感じのミナミ。 「ひどーい!そんなの絶対に許さないんだから!」 収まらないのはカレン、涙目で抗議する。 「じゃあ、あたしがこーするのも、やったモノ勝ちよね」 マナミは、カレンとミナミに笑いかけながらトキヤの頬に唇を寄せた。 チュッ! 「えっ」 「あっ」 「……あの」 ビックリしたトキヤが頬に手をやってマナミの顔を見る。 「照れちゃってかわいい」 ギュッとトキヤを抱き締めるマナミ。ついでにミナミとカレンに向かって「べえー」っと舌を出して挑発した。 「ちょ、ちょっと、あんた!」 「な、なんてこと……」 ミナミとカレンの目が▽になり、2人の身体から怒りのオーラがあふれてマントがたなびく。 「待って2人とも!」 マナミの腕に抱かれたトキヤは、2人を制止しようとジタバタするが、動くに動けない状態。 「待たない!」 2人が揃って天を指差すと、にわかに空が、かき曇りゴロゴロと雷鳴が轟く。 「わっ、止め!」 「うるさい!」 ミナミとカレンの声が重なって、トキヤの声がかき消す。そして、 ドドーン! 閃光が大音響とともに、マナミと彼女に抱き締められたままのトキヤに向かって襲いかかった。 「どわっっ!」 だが悲鳴は別の方向からした。 「……おい」 びっくり目になった若い男が、足を投げ出して尻餅をついてる。その両足の間には、落雷が作った大穴が開き、白く湯気が立ち上っていた。 「危ねえべや!俺を殺す気だべ!」 武装商人のビンゴは、その格好のまま上擦った声で叫んだ。興奮するとナマる。 「普通、人の家の庭先に雷を落とすか?」 ビンゴはソファーにふんぞり返って、まだブーたれている。一行には屋敷の離れが提供されていた。 「だから、さっきから謝ってるじゃない」 「ミナミも悪気があったんじゃないんだから、許してあげなよ」 「あー、カレンだって、しっかり精霊を使ったくせに」 「てへへへっ」 ミナミとカレンも別に反省しているふうでもない。 「でもね、元はといえばトキヤがいけないのよ」 「そう、村長の孫とイチャイチャして」 「イチャイチャ、誰が?」 トキヤは、キョトンとした顔で2人を見る。 「トキヤに決まってるでしょう!」 「いつ?」 「さっき!」 「そうかな」 考え込むトキヤ。 「そーなの!」 ミナミとカレンの声が重なる。 「でもさ、どーしてマナミが、ボクの顔を舐めただけで、2人ともそんなに怒るわけ?」 「……舐めた」 ミナミとカレンは、また声をハモらせて顔を見合わせた。 「ちゃんと答えてあげたら2人とも」 ニマーっと笑ってモナモナが2人の顔を覗き込んだ。 「いえ別にあたしは、ねえ、カレン」 「だって……ねえ、ミナミ」 2人は顔を赤くして黙ってしまう。 「妙にモテるのも問題だな」 ヨシヤは腕を組んでうなずく。 「ヨシアみたいに妙にモテないのもね」 モナモナはヨシヤの頭に着陸する。 「俺のことはいい。だいたいトキヤと比べられたら誰だって不利だぜ」 「そうだな、俺もそう思う」 ビンゴも同じように腕組みしてうなずく。 「ああ、でもヨシアには彼女がいるじゃない」 暴露するミナミ。 「そーいえば、強烈な追っかけの女の子がいたよね」 トキヤも思い出した。 「あたしも聞いたことあるな」 カレンも続く。 「裏切り者」 ボソっとビンゴ。 「やるじゃないヨシア」 モナモナが、ヨシアの頬を足でグリグリする。 「言っておくが、あいつは俺の彼女じゃないぜ」 「まーたまた、トボケちゃって」 「あいつは、俺の命を狙ってるんだぞ」 「それって、殺してしまいたいほど、思われてるってことなのよ。趣味は疑うけど」 「名前は、えーと何だっけ」 「おい、バカやめろ、その女の名前を出すな」 「どして」 「あいつが現れるからに決まってるだろ」 「呼ばれて、飛び出て、ジャジャジャジャーン!って」 「それに凄く近い」 「あっ、思い出した。確かリ……もががっ」 「トキヤ!その名前を口にするなと言っとろーが!」 慌ててトキヤの口を押さえるヨシア。 「もがもがもがっっっ……」 ついでに鼻も押さえていたので、やがて青くなってグッタリ。 「アホ!トキヤを殺す気か!」 ドカッ! ミナミの飛び蹴り。 「げっ!」 壁にブチ当たるヨシア。 「これは、人工呼吸の必要有りね」 いちはやくトキヤに覆い被さるカレン。 「待て」 後ろからミナミがカレンの口に指を突っ込んで左右に引っ張る。 「んんんんんっっっ、ひゃめれえ」 「どさくさに紛れて、あたしのトキヤになんてことを!」 「だはれが、ひゃんたのトキヒャひょお」 「なんだとお」 掴み合いになる2人。 「止めなよ、みんな、人様のお屋敷で」 モナモナは、テーブルの上でクッキーをカリカリと齧る。 トキヤは、パチリと目を開ける。 「どーしたの、みんな」 ケンカしてる奴に壁に張付いてる奴。それにこの隙にテーブルのお菓子を独り占めしている奴と、目が点の奴がいた。 「とにかく仕事の話だ」 やっと、ヨシアが壁から剥がれた。 「ビンゴ、説明してやってくれ」 ヨシアは、顔面から流血していた。 トキヤが、脇から背伸びして治療の法術を使う。 「あっ、うん、ああ分かった」 ビンゴは、我に返って口を開く。 「俺が交渉でまとめたのはこうだ。まずユニオンのハンターを先に行かせる。お前たちは一週間後の出発だ。勿論、奴が戻って来ないか、失敗した場合に限るが」 武装商人のビンゴが、ユニオンのハンターとの会見の結果を報告する。 武装商人は、飛空船で地の大陸33ヶ国を巡る商人であり、運送業者でもある。武装は、誇り高き彼等の自由を守る為のもので、それ以外に使用されることは無い。 ビンゴはまた、トキヤ達のエージェント役も務める。その見返りとして、彼等が手に入れるビィのウロコを独占して商っていた。 「なんでビンゴが決めるのよ」 ミナミが不満気な声を出す。 「ヨシアが話を着けるんじゃなかったの?」 カレンは、ヨシアの袖を引っ張った。 「まあ、そうなんだが」 「お前等、ヨシアだけに交渉を任せるたあ、大胆にもほどがあるね」 呆れ顔のビンゴ。 「そこまでスゴくはないと思うけど」 フォローするトキヤ。 「そのあたりは微妙なところだけど、ヨシアが『任せろ』って言ったのよ」 「ま、まあな」 「それにヨシアは、押しが強いから」 「ズーズーしいとも言うわね」 「それにモテないし」 モナモナが付け加える。 「だからそれは、関係ないぞ」 「だいたいだな」 ビンゴは、急に真面目な顔になってトキヤ達を見まわす。 「お前達を先に出れば、あのハンターだ、無用な争いなるに決まってる。だから奴を先に行かせる」 「別に争いなんか起こさないわよ」 「ねえ」 ミナミとカレンはうなずき合う。 「果たしてそーかな?お前等が、奴を無視したとしても、奴はお前等を無視したりしないだろう。それどころか、ビィより先に始末しよーとするだろうさ」 「確かに、そんな感じだったけど」 カレンは、ハンターの顔を思い出す。 「ユニオンにも質の悪いハンターはいるものね」 ミナミは横を向いて。それは、直視したくない現実。 「ビィの影響さ」 ヨシアが口を開く。 「確かにビィの臭いがしたね」 モナモナはテーブルのクッキーの大半を平らげた。 ビィを犯した人間は、魂を汚される。 性格が狂暴、冷酷になるのだ。 「でも、あのオッサンが先にターゲットのビィを倒したらどーするの?」 「肩を落としてスゴスゴ帰るとか?」 「カレン、それだけは勘弁してくれ。こんなド田舎に来た甲斐がない」 「心配するなヨシア、奴には倒せん」 「どーしてよビンゴ」 「そんなに弱そうじゃなかったけど」 「そのとーりだモナモナ。奴は弱くはないさ。それどころか、歴戦のつわものだな。あの感じは」 ビンゴの言葉には、既に魂が汚されていることを含んでいた。 「じゃあどーして?」 「俺が掴んだ情報から察するに、未子矢郊外の樹海に潜んでいるのは、集合体だ」 「また、集合体なの」 ビィの集合体というのは、数体のビィが合体して、一匹の化け物を構成したもの。個体のビィより数段手強くなる。 「この一年、ばかに多くないか」 「うん、去年までは集合数一桁でも大物だったのにね」 「だから単独で、しかも法術も機動装甲もないコテコテのハンターには、まず勝ち目はない」 「つまり、見殺しにする?」 トキヤが上目使いにビンゴを見る。 「俺は、あのハンターのプライドを尊重したまでだ。だいたい、あいつが俺の忠告を聞くと思うか?」 「思わないわね」 モナモナがトキヤに代わって答える。 「それにだ、お前等なら勝てるという確証もないんだぞ」 「……うん、そうだね。ごめん」 トキヤは、自分に言い聞かせるように呟いた。 「しかし、お前等なら勝てると俺は信じてる。そーでなけりゃ、この仕事を仲介したりはしない」 ビンゴは、そう言って立ち上がり、トキヤの肩を叩いた。 「ところでヨシア」 カッコ良く決めたところで、ビンゴはヨシアを庭先に引っ張り出した。 「今夜、抜けられるか?」 「そいつは、問題無いと思うが、何かあるのか?」 「お前をいいところに連れて行ってやろーと思ってな」 「いいところ?こんな田舎にいいところなんてあるのか」 「バカだなお前は、だからみんなにアホだとか言われるんだ。俺が何の為に最も足の速い[第八ビンゴ丸]で来てると思ってるんだ」 「それよりそのネーミング・センス、どーにかならんのか?」 「俺の船だ、他人にどーこー言われる筋合いではない」 ビンゴのビンゴ丸シリーズは現在、13番艦を建造中。当然、第13ビンゴ丸と名付けられる予定だ。 「それで、どーなんだ?行くのか、行かないのか、はっきりしろ」 「行くに決まってるだろ」 「そーか、それじゃ今晩は、お前に本当の大人の遊びってやつを教えてやろう」 ガハハハと笑いながら肩を組む2人。ビンゴも身体の大きな方だが、ヨシアの方が首一つ背が高い。 「社長」 背後からの声に2人の高笑いが止まる。 「やあ、ユカリくん」 ビンゴの秘書のユカリが手帳を広げて立っていた。ちなみにビンゴは、[ビンゴ武装運輸有限会社]という会社を経営している。無論、名前を決めたのは社長本人。 「今晩のご予定ですが、七時からこちらの聖堂での夕食会。九時からは、蹄国陸軍参謀様との商談となっていますが」 「そうだったかな」 「そーです。それに商談のファイルにも目を通していただかないと」 「じゃあヨシア、そういうことだ、楽しみは後になるほどデカイ」 「では、失礼します」 ヨシアに軽く会釈したユカリは、ビンゴを引っ立てて行った。 「おい……」 夕暮れの庭先に一人取り残されるヨシアであった。 夜。トキヤ達とビンゴとユカリは、聖堂での晩餐に招かれた。10人ほどの若い僧侶に村長とマナミが一緒だ。 「キャンプの食堂を思い出すね」 「ほーんと」 七神未子矢教会の食堂に懐かしさを感じるミナミとカレン。聖堂といっても、使える部部の半分は僧侶達の生活の場でもある。 「味も似てる」 モナモナは、もうスープを飲み干して、お代わりを待つ。 それが質量保存の法則を無視しているのは紛れも無い事実である。 「元々、ユニオンは七神の僧侶が始めたものと聞く。故に似ているところも多かろう」 村長はウンチクを垂れる。 「2000年近く前の話だけど」 モナモナが付け加えた。 「なに、良いものは普遍だよ」 「うん、この味は好きよ」 「私は、学校の寮を思い出しますわ」 「ユカリくんの学校というと、悪名高き武装女学院」 「社長、それは通称です。正式には、聖七神使徒商業女学院です」 「学校か、いいな」 「カレンさんが入学したいなら、推薦してさし上げますよ」 「それは、遠慮します。だって……」 「トキヤと離れ離れなんて耐えられなーい!から?」 派手なアクション付きで問い掛けるミナミ。 「そ、そうだけどさ」 口ごもりがちに答えて、トキヤをチロっと見るカレン。 「ボクは女子校には入れないよ」 かじり掛けのパンを置いて、キョトンとした顔で。 「なんなら俺様が行ってやるか」 「ヨシアの学力じゃ門前払いよ」 「はっはっはっ」 笑って胡麻化す。 「そー言えば社長、女学院の院長先生が、後で連絡を下さいとおっしゃってました」 「俺に武装女学院の?」 「げー、ビンゴが入学するの?」 「俺が女子校に入学してどーする」 「女生徒になる」 「ぷっ」 「ちょっと、スープが不味くなるよーな想像をさせないでよ!」 モナモナが自分の身体ぐらいのスプーンを振り上げて怒る。 「いいですね、武装女学院。あたしも一時期、憧れたことがあるわ。結構、本気だったのよ。パンフレットも取り寄せたし」 マナミが新しいスープ皿をモナモナの前に置く。 「おいおいマナミ、お前の両親が聞いたら腰を抜かすぞ」 村長が額の汗を拭う。 「でも、おじい様。武装商人に憧れてる女の子って、割と多いのよ」 「そういうものなのかね。ユカリさん」 「そうですね、毎年の入学者も、武装商人の家の出ではない女の子達が、増えてるみたいですから」 「いいなあ、やっぱりあたしも受験だけでも、してみれば良かった」 「それでマナミさんは、どーされたのですか?」 「あたしは、ご覧のとーり代々ボーズの家の出ですから、神学系の女子校で、役に立たない法術なんか、どっさり覚え込まされたって訳なのよ」 ため息混じり。 「コレコレ、役に立たんなどと、罰当たりなことを申すでない」 「ごめんなさい、おじい様」 ぺロッと舌を出すマナミ。 「神学の法術は、確かに実生活では役に立たないからね。元々、坊さんが修行の為にあみ出したものだから、仕方ないけどね」 「ほう、そちらの妖精さんは、なかなかの博識ですな」 「だてに千年は生きてないわよ」 ミナミが解説する。 「そんなに生きとらんわ!」 また、スプーンを振り上げる。 「だけどさ、役に立たないこともないじゃないかな、村長さんの法術も凄かったし」 「なーに、不精をしたまでのこと」 「確かに消費する力を考えれば、歩いたほーが楽かなとは思うけど」 「いや、歩くも法術も、この歳なら同じことさ」 「ふーん」 「ねえ村長さん、あれだけの法術を使えるなら、教会の人だけでもビィを倒せるんじゃないの」 トキヤの言葉にテーブルに着いた全員の視線が集まる。若い僧侶達の中には、同様の意見もあるのだろうか、小さくうなずく者もいた。 「ビィを倒すには、法術の力だけでも良いのかな?」 「だけでいいってことは無いけど」 「そーね、ビィを倒すには、それなりのやり方というものがあるからね」 「うん、マニュアルって言うのかな」 「俺は、剣があれば勝てるぜ」 「あんたは、特別よヨシア」 「まあ、元は七神の坊さんがハンターを兼ねてたんだから、出来ないことは無いとおもうけど、この樹海に棲んでる奴は無理ね」 モナモナは、3杯目のスープから顔を上げた。 「この一年の異変か」 「地の大陸の全体的な傾向だな。ビィのウロコの流通量も目減りしているしな」 ビンゴはパンをカジリりながら。 「集合体なら、ビィのウロコだって、その分、増えそうな気がするけど」 「そいつは、倒せたらって話だろ」 「ビィは強いのにハンターは、そのままだからな。お前等を除いては」 「ボク達もそんなに強くないよ」 「一人一人はな」 「俺は強いぞ」 「でも、アホだから」 「放っておけ」 「お前等の強さは、全員が揃って初めて発揮される。そうだろ」 「否定はしないわ」 「うむ、やはり普通のハンターとは違うようだな、お前さん達」 「普通の人間なら、こんなに食わないもんね」 ミナミが、モナモナとヨシアの前に置かれた皿の数を見る。 「失礼ね、これは戦いに備えての準備なのよ。大きな法術には、それだけのエネルギーを必要とするから、今のうちに貯め込んでおかなきゃならないのよ」 「俺もそうだ」 「ヨシア、あんた何時からそんなたいそうな法術師になったの?」 「今朝からか」 「ちょっと待って!」 トキヤが会話を遮った。 「何だ?」 「黙って、静かにして」 立ち上がって耳を澄ませる。一同は、凍りついたようになってその様子を見守る。 「帰ったみたいだ」 力尽きたように椅子にドサっと座る。 「ビィ?」 「うん、こんな所まで念を飛ばして来た」 「まさか」 「あたしは、何も感じなかったけど」 「俺も」 「そんなに強くは無いよ、様子を伺っていたんだと思う」 「樹海障壁を越えて此処まで、そんなことって有り得ないわ」 「いえ、あたしも感じたわ。トキヤの言ってることが正解よ。村長、この一年の間に村から消えた人、そう若い男ね、居なかった?」 ガシャン! 「あっ、ごめんなさい」 給仕をしていたマナミが皿を床に落としてしまった。 「全部で四人だ」 「やっぱりね」 「それって、ビィの仕業なの」 ミナミが聞く。 「多分ね」 モナモナはうなずく。 「ビィは、障壁の外でも人を引き込む力があるからね」 「でも、こんなに離れていた例は無かった筈よ」 カレンはスプーンを置いた。 「しかも、この村は刻印で守られている」 ヨシヤはジャガイモを齧る。 「そーよ、空から見た時、分かったでしょう、この未子矢村の形。一つの永久刻印を作っているのよこの村自体が」 「もう、壊れ掛ってるけどね」 「それでも、ビィの念は来たわ」 「つまり、どーいうことだモナモナ。俺にも分かるように説明しろよ」 「だから、あたし達の敵は、とんでもない大物ってことよ」 「なるほどな」 それだけ言ったヨシアは、新しい皿を手に取った。 ■SCENE003 ■目次 ■TOP ■ねこどっとこむ Mambo Nekoyanagi |