SCENE003



■2日前

「おはようヨシア、今日もいい天気だね」
離れから目を擦りながら庭に出たところで、頭上から声を掛けられた。
「おっ、早いなトキヤは」
白虎の肩に乗ったトキヤがいた。
「ヨシアが遅いんだよ」
「そーとも言うな。ふあーっ」
大きな欠伸をするヨシア。
「身体が鈍るよ」
「なーに心配無いさ、そっちの整備こそどーなんだ?」
「あと一日で仕上げるよ」
「頑張るねえ」
ヨシアの寝ぼけ目に、白虎の整備にいそしむトキヤは日の光りを浴びて、眩しく映っている。
「早いもんだな、あと2日で約束の一週間か」
「ヨシアは、ゴロゴロしてるから時間の流れが早いんだよ」
「こりゃ手厳しい」
トキヤたちの未子矢村滞在も5日目になっていた。
「ほら、村の人だってみんな働いてるんだからヨシアもしっかりやりなよ。リーダーなんだし」
「へいへい」
七神教会の僧侶と村人が、村のあちこちで土木作業を行っている。
「ホントあちらさんも、頑張るね」
トキヤたちに指摘された未子矢村を守る刻印を治しているのだ。村の城壁自体が一つの結界刻印という大きなものなので、どうしても土木作業が必要となる。
「ほぼ完成だね。後はお坊さん達が刻印を打ち直せば、完璧だよ」
刻印の打ち直しは、刻印師でなくても可能なのだ。
「一応、ビィの精神攻撃からは守られる訳か」
「天災からもね」
それが本来の効果だろう。
「これでユニオンのハンターがビィを倒してくれれば楽なんだがな」
ヨシヤは既に本気。
「これ以上、楽してどーするの?」
「寝てる」
「……」
暫し沈黙。
「あのハンター戻って来ればいいんだけど」
トキヤは、遠くの樹海に目をやる。
「生きてりゃ期日には帰るだろさ」
「あと2日しか無いんだよ、ヨシアも整備しないと」
「大丈夫、俺は魔法回路も刻印もさっぱりだろ、変にイジらん方が危険は少ない」
「それって、ボクにやれってこと?」
「分かっとるじゃないか、まっ、頼むわ」
「ねえ、整備ぐらいちゃんと出来ないと後で……」
「心配するなって、後でしっかり勉強するさ、ふああっ」
ヨシアの欠伸まじりの答えに、やれやれといった感じのトキヤ。
「ほら、そーやってトキヤがヨシアを甘やかせるからいけないのよ」
「そー、そーのとーり」
「少しはヨシアの脳味噌も使わせなきゃ、退化して無くなっちゃうわよ」
「もう、無くなっちゃったんじゃない」
「プッ」
「きゃっははははっ!有り得る!」
ミナミとカレンとモナモナ。それぞれ浴衣を着てタオルと風呂桶を持ってる。モナモナも自分のサイズに合わせた小さなモノを持っている。
「笑い過ぎだぞ、モナモナ」
ブスっとした顔でヨシア。
「また、温泉に入るの?」
トキヤは、ちょっと呆れてる。今朝からもう2回目だから。
「そーだよ」
モナモナがトキヤの所まで飛び上がって来る。
「好きだね」
「うん、大好き」
屋敷の敷地内に沸き出している温泉に、3人は日に何度も通っていた。もうほとんど湯治客である。
日頃、狭い飛空艇の中でシャワーにも事欠く生活だから、こんな時に溜まったウップンを一気に晴らしているらしい。
「ここの温泉って、とーってもお肌にいいのよ。ほらトキヤ、ツルツルでしょう」
浴衣の胸元を少しはだけさせるミナミ。だから胸のふくらみが半分以上も露になる。
「ふーん。少しは育ってるか」
ミナミの意に反して、ツルツルになった胸元をじっくりと覗き込んでいるのはヨシア。トキヤはモナモナと話し込んでいて、気付いてもいない。
「誰が、お前に見ていいと言ったっ!」
バキッ!
「おうっ!」
ミナミの強烈なパンチでヨシアは、向こうの方に飛んでいった。

「まったく失礼しちゃうわ」
温泉に浸かったミナミは怒っているのか、それともお湯が熱いのか赤い顔を半分沈めてブクブク言ってる。
「ヨシアにバッチリ見られたから?」
カレンは髪を束ねてタオルで巻いてる。
「バッチリは見られてないわよ」
「じゃあいいじゃない」
「ヨシアじゃなくてトキヤの奴よ」
「えっ、何時トキヤに見られたの!」
「違うわよ、そーじゃなくて」
「そーじゃなくて?」
カレンは、目をパチクリ。
「あたしの魅力にぜーんぜん気付かないんだから」
「まあ、ミナミじゃツライところね」
「喧嘩を売ってるのかカレン」
カレンに襲いかかるミナミ。
「きゃあ、違うわよ」
「子供だからじゃないの?」
光羽根を広げてお湯に浮いたモナモナはプカプカと漂う。
「そりゃ今年で15だけど、プロポーションじゃカレンより2馬身半はリードよ」
立ち上がってポース。
「胸が大きからって威張るな」
ジト目でミナミの胸を見るカレンは、つつましやかな自分の胸を腕でギューっと隠す。
「ミナミじゃなくて、トキヤだよ」
モナモナは、2人が立てた波にも動じずにクルクル回りながら漂っている。
「否定はしないけど」
「そこがいいんじゃない」
「純粋だもんね」
「ねー」
カレンとミナミは、2人で盛り上がる。
「少なくとも、あんた達の中では、年下のトキヤが一番しっかりしてるけどね」
モナモナが呟く。
「だけど、少しはあたしの気持ちに応えてくれてもいいと思うのよね」
「別にミナミの気持ちに応える必要は無いけどさ」
「何だって」
「そのあたりは子供なのよ。小さい頃のまま、いまも姉弟だと思ってるんじゃない」
モナモナは、指をフリフリ。
「そーかな?そりゃあ、モナモナは何百年も生きている妖怪だから、あたし達なんか赤ちゃんぐらいにしか見えないだろうけどさ」
「そんなに生きとらんわ!それに、あたしは妖怪じゃなくて妖精!」
流石に今度は、お湯から飛び出して抗議する。
「冗談よ。でもさ、いちばんの子供って、モナモナじゃないの?」
「……うん」
「カレンまでうなずかないでよ!」
その後もワイワイと騒いでた3人は、湯当たり寸前までゆで上がった。

「今日は、このぐらい」
白虎のサービス用ハッチを閉めたトキヤは、大きく伸びをした。周囲に目をやると、もう夕暮れから夜になろうとしている。
普通の機動装甲は、外骨格を成す装甲とそれを繋ぐ磁石のような関節に、ゲル状の体液と生命の元となる刻印からなるシンプルな構成だから、それほど手間は掛らない。
だが、こと空を自由に飛び回る白虎に関しては、精密な構造の駆動式の自動刻印板(飛空艇のそれとは違い、円盤状のものが組み合わされたもの)と複雑な魔法回路が大量に使用されている為に、点検だけでも時間を食ってしまうのだった。
白虎は地の大陸で一般に使用されている機動装甲と形こそ似ているが、その中身は全く異質の法術兵器と言えた。
「あれ、マナミ?」
村長の娘が、屋敷の向こうから出て来たのが見えた。手には温室で摘んだらしい花を抱えている。
そのまま小走りに庭を後にし、まっすぐ大通りに向かう。どうやら城壁の方を目指しているらしい。
「こんな時間に村の外に出るのかな」
マナミの行く城壁の先には、荒れ地と樹海が広がっているだけだが。
「もうすぐ夜だぞ。まさかビィの……しかしそれは無い筈だけど」
心配になったトキヤは、スルスルと白虎から滑り降りるとマナミの後を追った。

彼女は村を守る城壁を抜けると、樹海を目指すように一直線に荒れ地を渡る。
「やっぱり樹海……」
トキヤは、薄暗い中を進むマナミの白い服の後を追う。
既に嫌な気配が満ちている。城壁の外はあの刻印の効果も無い。それをこんな時間に樹海に近づくなんて……トキヤの中の不安が増大する。
「でも、ビィに呼ばれている訳じゃないようだけど」
夜の樹海に近づくことが、どんなに危険なことか、この辺で育った人間なら分かっている筈だが……。
「いったい、何を」
マナミは、荒れ地を渡り切ると樹海の目前で足を止めた。
トキヤは少し距離を置いて様子を伺う。少なくともビィは、樹海障壁の外に直接、手を出すことは出来ない。しかし、中に呼び寄せることは出来る。
マナミは、辛うじて樹海障壁の外側で立ち止まった。そのまま動かない。
「ビィの臭い」
僅かだけど確かにビィの臭いがする。
すぐ近くにいるのだ。
これ以上は危険だ。
「マナミ!」
トキヤの声に彼女は、ビクッとして振り返った。
「やだ、トキヤの。おどかさないでよ」
「それはこっちの台詞。こんな危ない場所に来て」
急いで走り寄るトキヤ。
「うん、ちょっとね」
マナミは、樹海の境界を成す巨木の根元にかがみむと、持って来た白い花をその場に供えた。薄暗くても、その白い色は際立って見える。
「今日で、ちょうど一年になるわ」
「誰か亡くなったの」
「死んだのかな、やっぱり」
「村長さんの言ってた消えた人?」
「ええ、私の婚約者」
マナミは、立ち上がった。
「でも、まだ信じられない。あの人、そのうちひょっこり戻って来そうな気がして……」
多分、それはない。
しかしそれをトキヤは、あえて口にしたりはしない。
「だって、この辺りにビィなんて居なかったのよ。子供の頃は、あたしだって樹海の中で遊んだことがあるもの。勿論、両親やおじいちゃんにバレて大目玉だったけど」
「この一年、ビィの動きは大きく変化している。だから、もう此処には来ないで」
「ねえ、本当にビィなんてものが存在するの?何かの間違いじゃないの、彼が消えたのだって……」
ビィハンター以外の者がビィを目撃する機会はまずない。あるとすれば、それはビィに殺される時ぐらいだろう。
「いるよ、ビィは存在する。この樹海には、とても大きな奴がいる。あのユニオンのハンターでは太刀打ち出来ないぐらいの」
「ごめん、分かってる。けど分かりたくない。ビィはいるのね。だから、祖父はあなた達を呼んだ」
「帰ろう。此処にいては危ないよ」
「うん、これからは、ハンターと一緒じゃないときには来ないようにするわ」
ガサッ!
樹海から薮をかき分ける音がした。
「マナミ」
そして声。
暗闇から聞こえた抑揚の無い声。
トキヤは、拳を握り締めた。
マナミは戸惑いの表情を浮かべていた。
「カケルなの?」
マナミの声に応えるかのように青白く光る顔が暗い薮の中に浮かぶ。痩せた無表情な男の顔。
「カケル!」
その男に向かって走りだそうとするマナミをトキヤは抱き止めた。
「駄目だ!」
「離して!」
「騙されるな!」
「どうして!カケルなのよ!カケルが帰って来たのよ!」
「マナミ」
「ほら、あたしの名前を呼んでる。間違い無いでしょう!」
「違う!」
トキヤは、マナミの身体を押さえたまま、彼女の名前を抑揚のない声で呼び続ける男に向かって掌を向けた。
「フリント!」
バシュッ!
白い光がトキヤとその男の間に刻印を造り、熱線となって薮の中に突刺さる。
「マナミィィィィィッ!」
薮に火がつき、男の顔がロウのように溶け、首がグニャグニャとのたうつヘビのように伸びた。それでも、彼女の名前を呼び続ける。
「マナミィィィィィッ……」
「きゃあっ!」
今度は、マナミがトキヤの身体にしがみついた。
「前にも言ったでしょう、ビィは樹海の中に人を引きづり込む力があるって」
トキヤは更に指動かすと、赤い炎の刻印が前面の空間を覆うように広がる。そしてそれ自体が弾けて樹海へと降り注ぐ。
炎の塊が死者の姿から激しく変化をするモノにブチ当たる。
「ギユッッッ!」
光に包まれた男の顔の残骸は一瞬、美しい女の横顔を見せてから、花火のように炎を吹き出して消えた。
後には、煤けた臭いと何事も無かったかのような暗い樹海。そしてマナミのすすり泣く声だけが残る。
ガサガサッ!
「!」
マナミは、ハッとして口を噤む。トキヤは彼女をかばうように片手で抱き寄せ、薮の中に目を凝らす。まだ、何かいる。
「助けて……くれ」
か細い声が薮の中からした。
「まだ、ビィがいるの」
マナミは、耳を塞ごうとする。
「いや、ビィじゃない」
薮から黒い影が現れた。というより、トキヤたちの足元に転がり落ちた。
「……化け物だ……あれは……」
影は、それだけ呟くように言うと、地面に突っ伏したまま動かなくなった。
「ユニオンのハンター」
トキヤは影を助け起こす。それは、5日前に樹海に入って行ったユニオンのハンターだった。
「息は、まだある。マナミ、離れにいるボクの仲間を呼んで来て!」
「は、はい」
マナミは、直に駆け出した。
「助けて……」
治癒の法術を使うと、ハンターの口が開いた。酷いケガをしているというわけではないが、髪と髭がはんぶんも白く染まり、あれほど筋骨隆々とした大男が見る影も無くやつれ、やせ細っている。
「もう、大丈夫だ。此処は樹海の外だよ」
「俺は、あんな化け物だとは聞いてなかったんだ……あんなものだと……分かっていたら絶対に……」
ゴフッ!
ハンターは、吐血する。
「何だ……法術が邪魔されているのか」
トキヤは気配に目を樹海へと向けた。
樹海の暗闇に無数の目が光る。それが一斉に2人を凝視した。
「ひぃぃ、助けて!」
ハンターはトキヤを突き飛ばし胸を掻きむしった。
「消えろ!」
両手で印を結ぶ。光を集めて刻印が出現する。光と炎が混ざり合う。トキヤは、それに別の法術を走らせた。
ドンッ!
樹海の境界に巨大な火の玉が出現する。
「ひいいっ……」
ユニオンのハンターは、目を大きく見開いて、腰を抜かしたまま後退る。胸の皮膚が破れて、幾筋もの血が流れ汗と混ざって黒く光る。恐慌に囚われた表情は、もはや常人のそれではない。
トキヤは、燃え上がった樹海の入口を睨む。巨大な生き物が障壁の向こう側に息づいている。
そして、聞こえる女達の笑い声。
囁くような忍び笑い。
それが炎の壁の向こうから幾つも幾つも。
「いったい、どれほどの集合体なんだ」
そして、唐突に気配は消えた。

駆けつけたミナミとカレンの法術で、ユニオンのハンターは、何とか一命を取り留めた。しかし、正気を取り戻すには、もっと時間が必要だろう。七神教会の僧侶の手で、近くの街へと送られて行った。

「どうする?」
「どーしよーか?」
「うーん」
「準備の問題があるよ」
「お腹空いた」
「ところで、今日の夕食は?」
「村長さんがお肉くれたから、ステーキあたりがいいんじゃないかな」
「豪勢だね」
「取って置いたってしょうがないわよ」
「体重計が怖いけど」
「何でもいいから早くして、焼き方はミディアム・レアね」
「あたしは、レアな感じで」
「あたしはミディアムだな」
「ちょっと待て」
「なに?ヨシアは生がいいとか」
「刺し身とは通だね」
「そーじゃなくて」
「わがまま奴ね、だったら何が食べたいのよあんたは!」
「誰が食い物の話をしとる」
「此処にいる全員じゃん」
「違うだろ話題が!俺達は今後のことを話し合ってたんだろ」
「あっ」
ミナミがポンと手を打った。
「そーだったわね」
カレンも舌を出して頭をかく。
トキヤたちは、離れの食堂でユニオンのハンターの失敗を受けて、対ビィの作戦を練る筈だったのだが。
「何時の間にか『夕食の献立について』に議題がすり代わっていたのね」
「だってお腹が空いたんだもん」
「同感」
「じゃあ、準備するよ。話し合いは続けてね。聞いてるから」
トキヤが立って厨房に。
「何だか、俺達って飯を食いながら話し合ってることが多いな」
「それは、リーダーのあんたがご飯を食べる時ぐらいにしかテーブルに着かないからでしょう」
「そーね、それ以外だと直に居眠りしちゃうし」
「へっ、どーせ俺が悪いんですよ」
イジケるヨシア。
「でもさ、此処のところみんなだって、温泉に入りっぱなしだったじゃないか。人のことはいえないよ」
トキヤが厨房からフライパン片手に顔を出してリーダーを援護した。
「そーそーだよな」
ヨシアは、簡単に立ち直る。
「だけどさ、出発にはやっぱりもう1日欲しいんだよね」
レンジに向かいながら話しをする。
「どーしてトキヤ?」
「白虎の整備が終わらないもの」
「あれだけ毎日イジってるのにまだ終わらないの?」
呆れ顔のミナミ。
「だってさ、一週間で予定を組んじゃったし、黒王の整備もまだだしさ」
「そんなのは、このバカにやらせなよ、自分の機体なんだから」
「俺様をバカ呼ばわりするとは失敬な」
「だったら、自分でちゃんとやれ」
「……はい」
「どーするカレン?」
「あたしは別に急いでやらなくてもいいと思うけど。ミナミこそどーなの?」
「五分五分かな、ビィの奴、既にあたし等のことサーチしているからね。遅れれば遅れるほど不利になることは目に見えてるわ」
「大丈夫、いくらビィが準備しよーと俺様の強さは変わらん」
「バカの意見は却下して」
「おい」
「モナモナはどーなの?」
「そーね、いつ出たって、あたし達が不利なことに代わりは無いわ。それならいっそ予定通りにして、その間に美味しいものを沢山食べておいたほーがいいわね」
「じゃあ、そーしようか、トキヤもいいわね」
「助かるよ」
トキヤは、フライパンから派手に火柱を上げながら答えた。
「だからミナミ、俺様はな」
「はいはい、あんたの強さは100年たったって変わんないわよ」
「はっはっはっ、そういうことだ!」
ヨシアは、勝ち誇ったかのように笑った。

真夜中。ミナミは、むっくりとベットから起き上がった。離れとはいえ、結構な部屋数があるので4人には、それぞれ別の寝室(モナモナは、トキヤと一緒の部屋)が、当てがわれていた。
「ここは可愛く『怖い夢を見ちゃったの』でいいかな」
枕を持ってベットから出た。そして物音を立てないよーに、そーっと廊下に出た。
「今夜のあたしって、ちょっと大胆、きゃっ!」
廊下の真ん中で、枕を抱き締めて一人で盛り上がるミナミ。
「誰が大胆だって」
後ろから氷のように冷たい声。
「ギクッ」
と、して振り返ると案の定。
「カレン」
「どーしたのこんな夜中に」
ギロッと睨む。
「えーと、トイレよ」
「枕を持って?」
「えっ、あっ、あら、あたしったらどーして枕なんか持って来たのかしら。えへ、寝ぼけちゃったのかな」
舌を出して自分の頭をポカリと可愛く。
「胡麻化したって駄目よ。ミナミ」
またまた冷たい声で。
「何のことかな」
「トキヤのところに行くつもりだったんでしょう?」
「ふっ、バレちゃしょうがないわね。じゃそーいうことで」
カレンの横を通り抜けようとする。
「ちょっと待ちなさいよ、あんたの部屋はそっちじゃないでしょう」
「怖い夢を見たから一人じゃ眠れないの」
キラキラと瞳を輝かせる。
「だったら、ヨシアのバカにでも添い寝して貰ったら」
「やーよ、趣味じゃないわ」
冷たく言い放つ。
「じゃあ、一人で悪夢にうなされてなさい」
「ところでカレン」
「なによ」
「あんたは、どーしてこんな時間に廊下にいるわけ」
「そ、それは、寝つかれなかったからちょっと」
「廊下をさまよってたわけ?変な女」
「……変な女って、違うもん、ちょっと廊下に出ただけだもん」
「嘘ね。ホントは、あんたもトキヤのところに行こうとしてたんでしょう?」
ずばりと指差す。
「あ、あたしは別に」
カレンは、モジモジしながらうつむく。
「あらそう、じゃあ、そのまま朝までさまよっていてね」
「ちょっと待てい、何処に行くのよ」
「だから、怖い夢を見たから、一人じゃ眠れないの」
また、瞳をキラキラ。
「お前な」
「まったく」
3人目の声にミナミとカレンは、ギクっとして振り返った。
「油断も隙もないわね」
光羽根をパタパタさせているモナモナ。
「えっ、あたし達はただ……」
「ねえ」
あせる2人。
「分かってる、みんなまで言うな、さあ静かに付いてくるのよ」
モナモナが先導で厨房に連れて行かれる2人。
「もー、あんた達も夕食の後、トキヤがチーズケーキを仕込んでいたのをチェックしてたのね」
「えっ」
「あの」
「ほらミナミ、ぐずくずしないで、冷蔵庫から出して切りなさい、カレンもボーっとしてないでお皿とスプーンの用意。食べる前にトキヤに見つかったらお終いなのよ」
「はい」
2人は、モナモナの剣幕に押されて、慌てて用意をする。
「いいこと一人、2切れまでよ」
テーブルの上に立ち、押し殺した声で最後の指示をするモナモナ。
「はーい」
「声が高い」
「……はい」
「よろしい」
でも結局、全部食べてしまい、翌朝トキヤに怒られる3人であった。




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Mambo Nekoyanagi